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フィンランドから学ぶ、冬のスポーツ文化と子どもたちの育成

※本特集は、過去にブログで紹介した記事を再掲しています。
※本ブログは2018年12月20日(木)に名寄市立大学で開催された、「フィンランドから学ぶ冬のスポーツ文化と子どもたちの育成」(なよろスポーツ合宿推進協議会主催)での発表より抜粋しています。

誰が教える?子どものスポーツ

みなさんは子どもの頃、どんな環境でスポーツを教えてもらっていましたか?
学校の授業、少年団、部活、スポーツクラブetc…。
多くの方が、小学校までは授業と少年団やスポーツクラブ、中学校からは授業と部活、という経験なのではないでしょうか?
そう、中学校からはスポーツ環境のほとんどが「学校」に頼るスタイルになっています。
このスタイル、世界を見回してみると、一般的ではないようです。
こちらの図を見てみましょう。今回の報告会では、名寄市立大学の関朋昭教授がフィンランドのスポーツ教育環境を考える上での土台として、世界の状況を教えてくれました。


※※※引用※※※
「学校型」とは学校間の対抗戦を中心にスポーツが発展してきた国々であり、日本はここに分類する。
「学校地域型」は学校以外にも地域のスポーツが盛んな国々であり、イギリスが起点となっている。
「地域型」は、福祉国家が占める北欧が多く、地域のスポーツクラブを中心としながら発展してきた国々である。
(「日本の学校スポーツに関する研究 : スポーツ経営と勝利至上主義に着目して」関朋昭 2014)
※※※

「誰が子どもたちにスポーツを教えているか、という視点で見てみると、この図のように分かれていきます。
日本は学校、かつ教師が部活のコーチとなる『教師型』。アメリカの場合は資格や実績のある民間のコーチが雇われ、エリートが育成されていきます。中国・韓国もエリート養成の色彩が濃くなり、中国は国家主導の「スポーツ学校」があります。フィンランドは地域のスポーツクラブなどが盛んな「地域型」に分類されます」(関さん)

子ども時代のスポーツ環境については、日本が珍しいスタイル。日本以外は3シーズン(地域や国によって差はある)などに分けて、一人の子どもが1年間でいろんなスポーツを経験していています。
10代にアメリカで教育を受けていた筆者の友人の談によると、彼女も夏はソフトボール、冬はスキー、バスケットボールなどと年間で様々なスポーツを経験し、さらには学業で一定のレベル以上の成績を収めないと試合に出させてもらえない、というのは当たり前だったそうです。

日本の小・中・高のスポーツ環境を見ると大会が多く、どの部活も今年の大会に勝つこと・良い成績を収めることがゴールとなってしまっています。そしてそれが一つのスポーツへの「囲い込み」(特にチームスポーツは人がいないと試合に出られないなどがあるため)のようになっています。
10代前半くらいまでは様々なスポーツを経験したほうが、子どもやアスリートとして成長していくためには良いというのは海外のスポーツコーチの間では常識。海外では、少なくとも小・中学校くらいまでは一つのスポーツで優秀な成績を収めることを重視しておらず、試合数や練習時間も発達に合わせて制限しながら、いろいろな経験をさせて身体やその動かし方をバランスよく成長させていくことを大切にしているそうです。身体が出来上がっていない小さなころから専門教育をしてもあまり効果的でないという認識もあります。

日本の子どもは一つの種目で、練習しすぎ?

実際にフィンランドのコーチにお話しをうかがうと、彼らもスポーツの掛け持ちを推奨しているそうです。選手育成環境とコーチングについて発表してくれた、名寄クロスカントリー少年団の北川信匡さんによると
「小学校で5つ、中学校で2つのスポーツを掛け持ちし、高校生から専門のスポーツを選択しているそうです。例えばサッカーならスピードや身体のコントロールを養えるし、野球なら体幹、バスケットボールなら瞬時に戦術を考える力など、スポーツによって身につけられる能力が変わってきます。クロスカントリー選手の中には18歳までサッカー選手だった人もいるそうです」
と話してくれました。

また、フィンランドのナショナルチームで年間700~900時間の練習時間が必要だと言われていて、日本のように持久力重視ではなく、スピード練習が求められているとのこと。ジュニア期からしっかり練習時間が管理され、どの学年で何時間・何をするかが決まっており、スキー連盟がコーチングの方法をきちんとコーチに教えています。

コーチングセミナーも充実していて、3つのレベルに分かれて学びます。まずはどんな練習をするか、次に1日の練習メニューを考える、1年間の練習メニューを考えるといった形でステップアップしていく講習だそうで、日本の中・高校生の練習時間は海外と比べても多く、そういった練習メニューや時間管理も重要だとの指摘があったそうです。

「日本人ができていないこととして他に指摘があったのは、『できたことを教える』ということでした。どうしてもできていないことに目を向けがちですが、できたことを伝え、それをモチベーションにつなげるということを積極的にやっていくべきとのことでした」(北川さん)

スポーツ教育のポイント

6~15歳までの子どもたちにどんなスポーツ教育が必要かという話では、以下のようなポイントが出ていました。

・楽しく走る
・跳ぶ
・大きく動く、素早く動く
・バランスを取る、回る

「走るだけでなく、スキーやサッカー、遊びを取り入れていて、バスケットボールコートの横には跳ぶ練習ができる器具や平均台などが置いてあるなど、すぐに移動していろんな種類の運動ができるように、体育館自体が工夫されています。実際に子どもたちが指導を受けましたが、平均台をただ歩くだけでなく回転したり片足でジャンプして回ったりと、スキー以外の動きがたくさん入っていました。」
「クロスカントリースキーの練習中、子どもたちに大きな動きをさせたいとき、『大きく動いて』という指示ではなく『大きく手を振ってみよう』と言うんですね。そうすると大きな動きができるようになる。素早く動く練習の際も『ここだけ頑張ろう』と区切ってあげると、集中できるし上達していきます。指示についても工夫がたくさん見られました」(北川さん)

名寄の課題とこれから

「フィンランド・ヴォカティでは、スポーツや健康が地域の重要課題としてとらえられていて、だからこそ教育、研究機関、行政が協働しています。そんな風に、なにが重要かを明確にすると、そこに注力できるようになるんです。名寄にとって重要なことはなにか、を改めて考える必要があります。経済、高齢化、子どもの学力・体力向上、市民の健康…いろんなトピックがありますが、しっかり決めることができれば、日本の子どもたちのスポーツ環境を変化させるきっかけが名寄で生まれるかもしれません。また、子どもだけでなく大人も育める冬季スポーツの環境づくりに向けて、いろんな方々が協働できるようになるといいですね」(関さん)

「ヴォカティスポーツでは、自然雪を年中残して利用できるように雪山を作っていたりするほか、一つの施設を作るだけでなく、いろいろと使えるような工夫もしています。ヴォカティ地区には、オリンピックセンターにある有名なスキートンネルだけでなく、合宿所や一般客も利用できるホテル、さらには会員制のホテルがあったり、屋内のアクティビティパークなども充実しています。自分たちの街の資源と強みを最大限に生かしているんですね。名寄も雪の多さや美しさを活かして、冬季スポーツはもちろん、ここにしかできないような観光スポットや施設があるといいですね」(名寄市立大学 荻野大助准教授)

「クロスカントリースキーコースのある『健康の森』で、ヴォカティのように体育館とか多目的スペースがあれば、スキー練習の後や天候不順時などに他のスポーツができやすくなります。これが地元の選手のためでもなく、合宿誘致にもつながると感じました」(北川さん)

文:黒井理恵